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前橋地方裁判所高崎支部 昭和52年(ワ)92号 判決

原告

田中稔

被告

埼玉県

ほか二名

主文

一  被告らは各自原告に対し金一三三二万五四九〇円およびこれに対する昭和四九年七月一八日から支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告らの、その余を原告の負担とする。

四  この判決主文第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

(原告)

一  被告らは原告に対し各自五〇八九万九〇一三円およびこれに対する昭和四九年七月一八日から支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言

(被告ら)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決ならびに被告埼玉県については担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

(原告)

一  事故の発生

(一) 日時 昭和四九年七月一七日午前九時三〇分頃

(二) 場所 埼玉県児玉郡神川村大字元阿保八一八番地先交差点

(三) 加害車両 長野一ま八〇七号

運転者 被告 土屋義一(以下被告土屋という)

(四) 事故の態様 原告は前記日時に訴外岡田富二運転の大型貨物自動車群一一す一七四一号の助手席に同乗し、右岡田運転車両は国道二五四号線を南方児玉方面より北方藤岡方面に向けて進行し、前記交差点に差しかかり自車前方が青色信号であつたのでそのまま進行したところ、西方鬼石方面より東方本庄方面に向け進行し、前記国道に交差する県道より同時に交差点に進入して来た被告土屋運転車両に衝突原告が負傷したものである。

(五) 傷害の部位程度

原告は右事故により頭部打撲症(頭蓋内出血)、陳旧性頸椎捻挫、第三、四腰椎圧迫骨折等の傷害を受けた。

二  責任原因

(一) 被告土屋

被告土屋は本件加害車両を所有し、自己のために自動車を運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により、原告に生じた後記人損の、又被告土屋は前記交差点に差しかかつた際、自車前方の信号機が赤色停止信号であつたから停止線直前において停止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り漫然同速度でしかも法定の積載量をはるかに越えて積載し制動がききにくい状態で交差点に進入した過失により、本件事故が惹起されたものであるから、民法七〇九条により後記物損につきこれを賠償する責任がある。

(二) 被告富岡建材株式会社

被告土屋は、被告会社に車持ち込みで雇用され、被告土屋所有の本件加害車両を使用して、被告会社の資材運搬の業務に従事していたものであるから、被告土屋に右過失がある以上、民法七一五条により、後記物損につきその賠償責任があり、本件加害車両を自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により後記人損につきその賠償をする義務がある。

仮に、被告会社と被告土屋との間に雇用関係がないとしても、被告土屋は被告会社に専属し、本件加害車両を用いて、継続的に被告会社の直接的指示のもとに、その指示する資材を指示する場所に運送していたものであり、被告会社は被告土屋を車付きで自己の営業組織の中に組み入れ、自己の業務を遂行していたというべきであるから、被告会社は自己の運行利益と運行支配の下に本件加害車両を運行の用に供していたものというべきである。

なお、訴外平林一美は被告土屋らとともに被告会社に雇用され、ないしは専属する運転手グループを形成していたものであるが、同人は、被告会社の右運転手グループに所属する各運転手に対する賃金ないし運送料の支払事務を代行していたにすぎず、訴外平林と被告土屋との間には雇用ないし下請関係は存在しない。

(三) 被告埼玉県

本件道路は、一般交通の用に供されており、被告県の機関である埼玉県公安委員会は道交法第四条により必要な信号機を設置及び管理し、交通の規制をする権限を有し、この権限に基づき本件交差点においても信号機が設置せられていたが、本件事故発生時には信号機が正常に作動しておらず、被告土屋進行道路上の信号機は青色信号より黄色信号が出ないで直接赤色信号に変つたため本件事故は惹起されたものであり、被告県は国家賠償法第二条に基づき原告の蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

三  損害

原告に生じた損害は次のとおりである。

(一) 治療関係費 三四万三〇七〇円

治療費 二三万四一六〇円

入院中付添看護料

三七日間妻律子付添 一日二〇〇〇円として七万四〇〇〇円

通院交通費 三万四九一〇円

(二) 休業損害 四三三万九〇〇八円

休業期間 昭和四九年七月一七日から昭和五〇年七月一六日まで

原告は大型車両を所有し、新日本ブロツク株式会社等を得意先として運送業を経営しており、一月少くとも三六万一五八四円の収入を得ていたところ本件事故により一年間は入・通院を続け全く収入を失つたので一年間の休業による損害は四三三万九〇〇八円である。

(三) 逸失利益 四四〇一万六九三五円

後遺障害の程度 腰椎奇形・背柱に著しい運動障害を残す自賠等級六級相当

労働能力喪失率 六七%

稼動可能年数 三八歳(症状固定時)から六七歳までの二九年間

年間所得 四三三万九〇〇八円

中間利息の控除 年五分の割合によるライプニツツ式計算法による。

二九年の係数一五・一四一

計算 四三三万九〇〇八円×〇・六七×一五・一四一=四四〇一万六九三五円

(四) 慰藉料 五〇〇万円

入・通院 昭和四九年七月一七日から八月二二日まで三七日鈴木外科病院入院

昭和四九年一〇月二一日から五一年二月末

須藤外科病院通院実日数二五七日

昭和四九年九月七日から同年一〇月二八日まで村井田守接骨師通院実日数三三日

昭和五〇年一〇月一一日から同年一二月二〇日まで大井接骨院通院実日数四九日

後遺障害 自賠等級六級相当

(五) 物損 七〇万円

本件衝突により原告所有車両は使用不能の全損状態になりその時価は七〇万円であつたから右七〇万円の損害を蒙つた。

(被告土屋)

一  原告主張第一項の事実は認める。同第二項(一)の事実中、被告土屋に過失があるとの主張については否認する。同第三項の事実はいずれも知らない。

二  被告土屋は本件事故発生日時頃、制限速度五〇キロメートルのところを四七、八キロメートルの速度で進行し、当該交差点にさしかかつたところ信号が青色なのでそのまま当該交差点に進入しようとした。ところが信号が青色から急に赤色に変り、急制動の措置をとつたが間に合わず、交差点内で停車し原告の同乗している車と衝突してしまつたものである。

従つて原告の主張のように、停止線直前においての停止は不可能であり、業務上の注意義務を怠りただ漫然と交差点に進入してしまつたものではない。よつて被告土屋にはなんらの過失もないことは明らかである。本件での事故発生は信号機の故障に起因するもので当信号機を管理する被告埼玉県がその責に任ぜられるべきである。

(被告富岡建材株式会社)

一  原告主張第一項、第三項の事実はいずれも知らない。同第二項の事実は否認する。

二  加害車両の所有者被告土屋の雇傭者は訴外平林一美であり、同被告は平林の指図にしたがつてその業務に従事していたものである。被告富岡建材は平林を雇傭したことはない。同訴外人に建材の運搬を請負わせたにすぎない。

(被告埼玉県)

一  原告主張第一項の事実中事故が発生したことは認めるが、原告同乗の車両が青色信号に従つて交差点に進入したことは知らない。同第二項(三)の事実中、本件信号機を設置、管理していることは認めるがその余の事実は否認する。同第三項の事実はいずれも知らない。

二  本件事故現場の交差点は、国道二五四号線(以下「国道」という。)と県道新宿神保原停車場線(以下「県道」という。)が交差する場所で、道路幅員は国道側七・五メートル、県道側八メートルで、各道路の路面は舗装され、平担で乾燥しており、歩車道の区別はない。事故当時の現場交差点の見通しは、各道路は直線で交差しているが道路南側に、道路に面してとうもろこしが栽培されていたため、相互の見通しは悪かつた。事故発生時の交通状況は、国道、県道ともに自動車の往来や歩行者の通行は少なく、閑散であつた。なお、現場附近の国道は、駐車禁止のほか自動車の最高速度毎時五〇キロメートルに規制されていた。事故現場交差点の交通信号機は、昭和四六年三月九日埼玉県公安委員会告示第五三号により設置された定周期式交通信号機(型式EC二四九〇H製造年月昭和四五年一二月製造番号Y八〇一二八七)である。

本件事故の原告および被告土屋ならびに訴外岡田富二は、いずれも交差点の信号機の青色信号に従つて交差点に進入したものである旨主張しているものであるが、事故の直後事故現場を実況見分した司法警察員警部補四方田勉は、国道側、県道側の信号機が同時に青色信号を現示するような異常現象は認めていないところであり、かつこの信号機の回路は、継電器回路の設計の上で防止措置を行うとともに、万一両方向のランプに同時に青信号が点灯するような電圧が印加されると、制御機の電源を切断し滅灯するよう二重の防護措置を講じてあるので、両方向の信号が同時に青信号を表示することは絶対にないよう設計されているのである。それ故本件事故は被告土屋か訴外岡田のいずれかが赤信号を無視して交差点へ進入したことによつて惹起せしめられたものであつて、被告県には責任がない。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  原告主張第一項の事実中、事故の発生自体については信号機の表示の点を除き、被告土屋、被告埼玉県の当事者間には争いがなく、被告富岡建材株式会社と原告との間では成立に争いのない乙第一号証、甲第三、四号証によりこれを認めることができる。

二  そこで本件事故の態様、過失関係について判断する。

成立に争いのない甲第二号証、乙第二号証、第三号証の一、二第四ないし第六号証、前掲第三、四号証、乙第一号証、証人四方田勉の証言(第一、二回)によると次の各事実を認めることができ、この認定を左右するに足りる確証はない。

(一)  本件事故現場の状況は凡そ別紙図面のとおりであり、訴外岡田富二運転の車両(以下原告車という。)は国道二五四号線を寄居方面から藤岡方面に向き進行し、被告土屋運転の加害車両は県道を鬼石方面から本圧方面に向け進行してきた。双方の車両相互は見通しが悪い。

(二)  本件交差点において、原告車につき衝突まで原告車のブレーキ痕がなく、衝突後のスリツプ痕のみが路面に記されている。他方、加害車両のブレーキ痕は別紙図面のとおり路面に記されている。

(三)  事故当時、本件交差点信号機のサイクルは国道側に対面するものは異常なく、県道側に対面するものは黄色の点灯表示が極端に短くなつていた。両信号機の作動自体は右表示の短い点を除き正常に行われており、両信号機が同時に青信号を表示することはない。

(四)  衝突直前被告土屋は警音器を鳴らし、訴外岡田はこの音を聞いている。

ところで、両車の速度であるが、被告土屋は時速四七・八キロメートル、訴外岡田は時速約五〇キロメートルと供述しているが、タコグラフなどの客観的資料はない。

次に訴外岡田は衝突地点手前約五四メートルで青信号を確認した旨述べており、他方被告土屋は衝突地点手前一〇・五メートルで青信号を確認した旨述べている。本件交差点の信号が双方とも青・青になるという証拠はまつたくなく、かつ、事故当日の信号機の表示についての実況見分時でもそれは認められていない。そこでまず、訴外岡田が青信号に気付いた地点と交差点との距離は、ほぼ同速度で進行している被告土屋にとつても交差点から大体同じ距離と言つてよい。

しかし被告土屋の加害車両のブレーキ痕は別紙図面記載のとおりである。これに空走時間を〇・八秒とするとブレーキ痕の一一・一メートル手前ということになる。被告土屋は交差点に入る直前の横断歩道付近で青信号を表示していた旨供述するが、ブレーキ痕と空走距離から考えて、極めて不自然である。それ故被告土屋が青信号を見たのは交差点のもつと手前でなければならない。被告土屋が青信号で、しかもクラクシヨンを鳴らし、直ちに急ブレーキを踏むとは考えられない。よつて被告土屋の実況見分調書における指示説明は措信しがたい。むしろ、被告土屋は本件交差点に差しかかる約五〇メートル手前で信号の表示が青であつたので、そのまま交差点を通り過ぎれると思つて進行した直後信号が青から黄に変り、一般の運転者が考えるように、黄色が四秒程度ありこの間に通り過ぎれると思い、あえて急ブレーキをかけずに進行しようとした瞬間信号が赤に変り、危険を感じてクラクシヨンを鳴らし、右方から来る原告車に気付いて急ブレーキをかけたと見るのが相当である。けだし、前記空走距離を入れると、ほぼ同速度で走行して交差点に向つている原告車を発見しうる位置に該当する。

成立に争いのない甲第二号証、乙第三号証の一によると、いわゆる赤・赤の状態は〇・五秒ないし一秒であるが、被告土屋側の信号機の黄が短いということはこの間赤・赤が長かつたのか、あるいは本来黄信号部分まで青が長かつたのか、必ずしも明確でないが、成立に争いない乙第四号証の岡田の供述ならびに乙第二号証の一の被告土屋の供述から見て、後者であつたものと推認しうる。

次に訴外岡田および原告は五〇メートル余手前で青信号であつた旨供述している。岡田は交差点の手前横断歩道から四・八メートル手前で、クラクシヨンを鳴らしながら交差点手前の横断歩道付近に進行してきている加害車両を発見し、自分が信号無視をしたのだろうかと思つて信号を見たら青信号であつたと具体的に供述している。そして岡田は加害車両を発見してから約一九メートル進行した地点で加害車両と衝突している。原告車のブレーキ痕はないから、この間全部を空走距離と考えると、秒速二三・七五メートル、時速八五・五キロメートルとなり、又空走時間を一秒とかなり大目にとつたとしても時速六八・四キロメートルとなる。そうすると、訴外岡田が空車の状態で時速約五〇キロメートルで走行してきたというのは疑問である。仮に約五〇メートル手前で青信号になつたとしても、時速六八・四キロメートルで走行して来ると二・六秒で交差点に入ることになる。このことから考えると訴外岡田は法定速度を超える少くとも時速六〇キロメートルで本件交差点にさしかかつたものと推認される。

以上述べたところから、結局被告土屋には、交差点に差しかかる五〇メートル程手前で信号の表示が既に青信号になつていたことに気を許し漫然従前の速度で進行し、信号変りを予測して減速しなかつたために結局交差点に進入する手前で赤信号の表示に従うことができず、クラクシヨンを鳴したものの、交差点に進入した過失があり、訴外岡田にも制限速度を越した速度で漫然と本件交差点に差しかかつたため、進入寸前には青信号に変つたものの、加害車両発見するも停止等の避譲措置をとることができず加害車両の右側面にノーブレーキの状態で衝突した過失があると言わざるをえず、これが原告の損害の拡大にも寄与していると言える。

次に被告埼玉県が本件交差点の信号機の設置、管理をしていることは同被告と原告との間には争いがなく、仮りに信号機が正常に作動していれば、少くとも被告土屋は交差点に入る四秒ほど手前、距離にすると五五メートル以上手前で黄信号による警告が与えられ、交差点手前で容易に停止しえたものであり、本件事故が発生しなかつた蓋然性が高いと言わざるをえない。換言すれば被告土屋は黄信号部分が短くなつた時間帯だけ青信号のため、減速することなく交差点に近づいてしまつたと言える。そして信号機の表示が右認定の如く第三者の行為によらずして通常の表示と異つて異常となつていた以上、それが現実に何時生じ、あるいは生じてから修復する時間がないとしてもこのような異常事態が生じうべからざる状態にしておくか、あいるはそれに代る措置が自動的にとられていなかつたという意味において、交差点の設置、管理上の瑕疵があると言わざるをえず、第三者の行為により信号機自体が破壊されたような場合とは別異に解するのが相当である。

そこで、本件の過失関係を比較してみると、被告土屋の過失、被告埼玉県の過失が同程度で競合し、訴外岡田の過失は小さいと言うことができ、その負担割合は被告土屋、被告埼玉県側の加害者側八、訴外岡田二とみるのが相当である。

成立に争いのない乙第四号証、原告本人尋問の結果によると、原告車は原告の所有する自動車であり、本件事故時原告が免許停止中のため、いとこの岡田富二に代つて運転してもらい、自己が助手席に同乗していたことが認められるので、訴外岡田と原告とは被害者側にあると言うべきである。

そこで前記過失の割合を考慮し、後記原告に生じた損害のうち二割を過失相殺することとする。

次に被告富岡建材の責任につき判断する。

証人平林一美の証言から真正に成立したものと認められる甲第一号証、前掲乙第三号証の一、同証人の証言、被告土屋本人尋問の結果によると、被告富岡建材は土建業を営み、民有地で砂利を採取した後の穴を埋めることを主たる業務としていること、そのため土の運搬は同被告の重要な仕事となつていること、同被告は本件当時、自己所有のダンプ七、八台と、いわゆる白トラのダンプ二五、六台を入れて自己の業務を行つており、訴外平林一美は白トラのいわゆる代車グループの責任者として運送賃の請求事務を行つていたこと、具体的な運搬の指示は被告富岡建材から各運転手に直接指示されていたこと、訴外平林は昭和四七年から昭和四九年一杯ぐらいまで、被告土屋は事故前六カ月前程から被告富岡建材の土砂運搬を専門的に行つていること、本件事故当時被告土屋は警察官に勤務先は被告富岡建材である旨供述していること、しかし被告土屋は被告富岡建材とは雇傭関係はないこと、本件事故時被告土屋は被告富岡建材のための土を運搬していたことの各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

そうすると、被告富岡建材と被告土屋との間に雇傭関係はないものの被告富岡建材は被告土屋を含めたいわゆる代車グループを自己の業務遂行のため、訴外平林を介するなどして継続的、専属的に取り込み、自己所有の車両を使用するのと全く同じように、具体的な指示を与えるなどして、加害車両を自己のために運行の用に供していたものと認めるのが相当であり、外形的には使用者として告告土屋に指示を与えていたものと認めることができる。本件事故時は、被告富岡建材の土砂を運搬という業務を執行していたことも認められるので、同被告は原告に生じた人損につき自賠法三条の、物損につき民法七一五条の責任があると言わざるをえない。

四  次に原告に生じた損害について判断する。

(一)  治療関係費

成立に争いのない甲第六号証、第七号証の一ないし三、第八、九号証、原告本人尋問の結果から真正に成立したものと認められる甲第一〇号証、第一一号証の一・二、第一二号証、原告本人尋問の結果によると、原告は本件事故により頭部打撲症(頭蓋内出血)、頭部切創、左前腕部切創、左足背打撲症兼挫創、両肩関節打撲傷の外傷を受け、鈴木外科病院に昭和四九年七月一七日から同年八月二二日まで要付添の状態で三七日間入院し昭和四九年八月二三日から同年九月一七日まで実日数一三日間通院後、転院し、須藤外科病院において陳旧性頸椎捻挫、第三、四腰椎軽度の圧迫骨折の病名で昭和四九年一〇月から昭和五一年二月末日まで実日数二五七日に及ぶ通院治療を受け、さらにこの間村井田守接骨院、大井宏接骨院で治療を受けたこと、右鈴木外科病院においては自賠責保険金の傷害分八〇万円のほかに原告自ら一万六四六〇円を支払つていること、村井田接骨院については昭和五〇年四月一五日付(領収証甲第一一号証の一に四五年とあるのは五〇年の誤記と認む。)で六万七〇〇〇円、昭和四九年九月七日から一〇月二八日まで一五万〇七〇〇円を支払つたこと、通院交通費として合計三万四九一〇円を支払つたこと、

が認められ、右認定に反する証拠はない。

そうすると、治療費としては二三万四一六〇円の原告支払分と八〇万円の自賠責保険金合計一〇三万四一六〇円ということになる。付添費については入院一日二〇〇〇円の三七日分(診断書は三五日の要付添となつているが、三七日の入院期間中二日を除外する理由はない。)七万四〇〇〇円が相当である。以上治療費、付添費、交通費を合計すると治療関係費は一一四万三〇七〇円(既払分八〇万円を含む。)ということになる。

(二)  休業損害および逸失利益

原告本人尋問の結果から、原告は当時いわゆる白トラ営業を行つて相当の収入を挙げていたことを認めることができるが、右はいわゆる違法収入であつて休業損害、逸失利益の算定の基礎となる収入とはすべきでない。もとより、これは違法収入に依るべきでないということだけで、客観的に原告の労働能力を評価し、それにより予測される収入までも否定すべきではない。そこで事故日や本件口頭弁論終結時等も考慮し、控え目にみても原告は、「賃金構造基本統計調査報告」(昭和五一年)に基づくパートタイムを除く男子全労働者の平均賃金による年収額二一八万三九〇〇円程度の正規の収入を得る労働能力はあつたものとして以下算定することとする。

原告と被告埼玉県との間では当事者間に争いがなく、被告富岡建材との間では原告本人尋問の結果から真正なものと認められる甲第一六号証、成立に争いのない甲第一八号証ならびに弁論の全趣旨によると、原告は本件当時三三歳であり、本件事故のため少くとも一年間は完全に就労出来ない状態であつたこと、本件事故による後遺障害につき、自賠責保険前橋調査事務所において自賠等級六級五号の認定を受けたこと、現在上体を横にひねること、長時間坐つていること、右腕の力が弱いこと、肘を中心にして内側にまげること等が困難で、その労働能力を相当程度喪失していること、現在の仕事は妻が経営している飲食店の手伝をしていること

の各事実を認めることができる。

右事実によると、原告は、原告主張の稼働可能期間二九年間多少改善される余地はあるにしても少くともその労働能力の四五パーセントを喪失したものと認めるのが相当である。

そこで原告に生じた休業損害ならびにライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除した逸失利益の現価を算定すると、次のとおりとなる。

(休業損害)

二一八万三九〇〇円×一=二一八万三九〇〇円

(逸失利益)

二一八万三九〇〇円×〇・四五×一五・一四一〇=一四八七万九八九三円

(三)  慰藉料

原告が蒙つた前記傷害の部位程度、入・通院の期間、後遺障害の程度その他諸般の事情を考慮すると、慰藉料としては五〇〇万円が相当である。

(四)  物損

原告本人尋問の結果から真正に成立したものと認められる甲第一四号証、同本人尋問の結果によると、原告は原告車の所有者であること、本件事故で原告車は修理不能な状態となつたこと、事故時における原告車の時価は七〇万円相当と評価されていること、の事実を認めることができる。そうすると原告に生じた物損については七〇万円と見ることができる。

(五)  過失相殺

前記各損害費目における数額を合算すると、本件事故により原告に生じた損害は二三九〇万六八六三円となるところ、前記のとおり原告は被害者側として、過失相殺の対象となるから、この分二割を相殺すると一九一二万五四九〇円となる。

(六)  既払分の控除

原告は自賠責保険金後遺障害分五〇〇万円を受領していることは自陳するところであり、前記のとおり自賠責傷害分として八〇万円病院に支払われているのでこれを右損害額から控除すると残額は一三三二万五四九〇円となる。

五  よつて、原告が被告三名に対し連帯して一三三二万五四九〇円および本件不法行為の日の翌日である昭和四九年七月一八日から民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるので認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担については民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言については同法一九六条を適用し、被告埼玉県の仮執行免脱の宣言は相当でないから付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐々木一彦)

別紙図面

〈省略〉

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